弊社もおかげ様で設立から6期目を迎え、沢山の良いご縁に恵まれて一度も赤字を出すことなく、事業も順調に進んでおります。今回は人材紹介で起業を考えている方のお役に立てればと思い、私がどのように起業準備を進め、5年間を乗り越えたかをシェアしたいと思います。ご参考になれば幸いです。
私が人材紹介で起業を決意した理由
一言でいえば「行きたい会社がなかったから」です(笑)
私のキャリアは、リクルートで、リクナビNEXTやとらばーゆの求人広告媒体の営業からスタートしました。NTT系の大手企業から、神楽坂の印刷会社まで、色々な企業様の採用をご支援する中で、当時、西新宿の高層ビルにあるシステム開発の社長と出会い、ニーズはあるが社員が定着しないので事業拡大ができないと相談を受けました。
当時の上司や先輩達の助けを得ながら、トレーニングやボーナスシステム、また定着する社員の採用設計など、様々な提案をすることで当時7名の会社が30名へと拡大し、「人が変わると会社が変わる」という事を心の底から実感し、この世界にどっぷりはまりました。
その後は、大学でグローバルマーケティングを専攻していたこともあり、日系企業と外資系企業の組織の違いを勉強するため、University of California Barkeleyに留学しました。
帰国をしてからは、Robert Walters Japanに入社し、初めての外資系企業、すべてが英語という環境にカルチャーショックを受けながらも、リクルートで朝8時から深夜2時まで毎日働いていた筋力は衰えておらず、入社して1年後には、四半期で世界TOPの売上を作る事ができ、やりがいを感じながらも、もっと質の高い仕事がしたいと、CDS(現:RGF Executive Search)に転職しました。
CDS(現:RGF Executive Search)は、入社当時データベースもクライアントとの契約書も何もないという環境で、更にカルチャーショックを受け、3回泣きました(笑)。前職でのお客様から案件を頂くも、データベースがないのでスピードと量では全く歯が立たないという状況で、入社して3か月売上ゼロ。やり方を180度変えないと勝てないと、全く新しい業界の全く新しいお客様をイチから開拓。あらゆるエージェントに頼んでいるけれど、6か月欲しい人材が見つかっていないという、「人材の質」にこだわるお客様に、「ピンポイントで欲しい候補者」をヘッドハンティングで探し出し、ご紹介するというスタイルに変える事で、入社後6か月目に15M、翌年には50Mを超える売上を作る事ができました。
それからは、クライアント企業が抱える経営課題を、CXOや事業部門長、ハイアリングマネジャーから直接お聞きし、今後事業をどうしていきたいのか、どのような組織を作っていきたいのかビジョンを伺った上で、ベストな人材を日本全国から探し出しご紹介、そうしたお力添えで経営課題が解決できる事がとても楽しく、あっという間の7年を迎えました。
しかし、どこの会社も組織が大きくなると社内政治や、行動できる範囲に制限が出てきます。最後の方は60%社内調整に時間をかけることとなり、クライアント企業と候補者の方々へ全力で向き合えていない事に気づきました。
私が次に探していた会社の条件は、以下の通りです。
- 組織全体がクライアント、候補者の立場で考えている(完全顧客志向であること)
- ヘッドハンティングができる環境が整っている(リサーチャー含)
- 書類通過率80%以上、戦略的にサーチを進めているコンサルばかりである
- 社内政治がない
- KPIがない
- 働く時間、場所が柔軟である
- 担当できる領域が限定的でない(少なくとも2、3つの業界を広く担当できる)
- 良いと思ったことはスピーディーに実現できる
- コンサルの報酬が売上の50%以上
- エグゼクティブサーチを中心にリテイナーや独占契約で進められる
これらが過半数でも満たされる会社を探しましたが、どこにもなく「そうであれば、自分で造るしかない!」と起業を決意するに至りました。
起業のための下準備

私は会社に勤務しながら、終業後や週末を使って起業1年前くらいからコツコツ準備を進めていました。以下は、実際に行動に出る前にやっておいたほうが良かったことをご説明します。
事業構想・計画作り
まず初めに着手したのが、創業ステーションへの申し込みでした。ここは、東京都が初めての起業をサポートしている組織で、無料で事業計画書作成や創業融資サポートを受けることができます。私が実際にお世話になった先生も、元Sonyの経営企画ご出身の方など、大手での経験とご自身で独立された経験も持っている方で、とても勉強になりました。
事業計画書作りにおいては、数年間の売上や利益のシュミレーションなども含むので、初期費用にいくら必要か、コストはどれくらいかかるかなど、具体的な資金面でのイメージと、タイムスケジュールなども把握する事ができるので、実際の計画にとても役立ちました。
また、ここで作成した資料はのちに銀行融資を受けるにあたって、そのまま利用する事ができ、銀行の方からも「創業時にこんなにしっかりした計画書はなかなか見ないです」とお褒めの言葉を頂き、すんなり融資が通りました。
税理士、社労士さん探し
次に、法人登記からサポートしてくれる税理士さんを探しました。税理士からのサポートも、顧問になって頂いて毎月継続して支援頂く、年1回決算時のみ、などによって費用も変わってきます。
私は初期からなるべくコンサルタントとしての仕事のみにフォーカスしたかったので、顧問契約で給与計算、月次決算、年次決算などすべてをお任せできる税理士さんを探し、3社くらいとミーティングをしましたが、最終的に知り合いからの紹介でお任せする事になりました。会計税務だけなく、資金調達や労働法などにも詳しい方で、今でも大変お世話になっています。初めての起業こそ、信頼できる顧問税理士の方を見つける事をお勧めします。
次に、有料職業紹介事業許可証(以下、人材紹介ライセンス)に関しても、確実に滞りなく進めたかったので、詳しい社労士さんにお願いしました。この方にはその後顧問になっていただき、労働関係の相談や、毎年1回ある厚生労働省への報告書などもお願いしています。
会社をスタートするにあたって、また人材紹介業を運営するにあたって、知らない事がとても多かったので、初期から専門家による強力な外部サポート体制を構築するのは非常に大切で、やっておいて本当に良かったと実感しています。
なお弁護士さんについては、複数名に案件ごとにサポートして頂いています。
創業時や、日々の運用に必要な実務
人材紹介ビジネスを行うにあたって、創業時に必要な事、またその後日々の運用に必要な実務は以下の通りです。
<創業時にのみ必要>
- 法人登記
- 社会保険登録
- 職業紹介責任者講習受講
- オフィス契約
- 有料職業紹介事業許可証申請
- 法人銀行口座作成
- HP作成
- 固定電話契約
- データベース契約
- 社内システム構築
- 資金調達
<日々の運用に必要>
- 給与計算、支払い
- 経費・請求書管理、支払い
- 売上・入金管理
- 社会保険支払
- 月次決算
- 年次決算
- 法人税、消費税支払い(年2回)
- 職業紹介事業報告書(年1回)
- HP運用、SEO対策
- 社内システム運用
- 職業紹介責任者講習受講(5年に1回)
- 有料職業紹介事業許可証更新(更新は最初のみ3年後、その後は5年に1回)
次の項目では、特に創業準備について詳しく説明します。
上記に挙げた<創業時にのみ必要>な実務になります。
創業準備(時系列)
人材紹介ビジネスをスタートするにあたって、以下の手続きが発生します。それぞれの注意ポイントや、実際に私が経験の中で得た点を時系列でお伝えします。
- 職業紹介責任者講習受講
色々な団体や会社が講習を行っているので、都合の良いタイミングで受ける事ができると思います。最後に簡単なテストがあって、それに合格すると有料職業紹介事業許可証申請に必要な受講証をもらうことができます。
- 法人登記(社会保険登録)
私は税理士さんに登記申請をお願いしました。大体申請から1か月程度で法人登記が完了します。人材紹介事業は、個人事業主、合同会社、株式会社、いずれの法人格でもライセンス申請が可能ですが、「会社の信用」を一番に考え、私は株式会社を選びました。
資本金は、500万円以上、900万円以下をお勧めします。500万円は、有料職業紹介事業申請を通す際に必要最低限の金額で、資本金1000万円未満の事業者は、設立から2期目まで消費税の納税義務を免除されるので、会社運営が少し楽になります。
初期の自己資金は、1000万円以上を用意しておいた方がいいでしょう。
- 法人銀行口座作成
銀行口座も、ネット銀行やメガバンクなど、様々な選択肢がありますが、私はやはり「会社の信用」を考え、メガバンクで作成しました。
メガバンクの口座だと、システム料として月3000円程度、振込手数料が1件当たり600円以上と、コスト面でのデメリットはあります。ただ、海外のお客様からの入金の場合、毎回電話で詳細の連絡が来るなど、安心感もあります。
一方、ネットバンクだとシステム料や振込手数料がとても安く設定されていますが、会社としての信用性が薄れるというデメリットがあります。
- 固定電話契約
最近ではなくても全く問題ないですが、やはり「会社の信用」の為に「03」ではじまる電話番号をNTTから取得しました。「050」などのIP電話より、資金調達(銀行融資や助成金など)の際にも、有利に働くと聞いています。
弊社はフルリモート可能を前提に会社設計をしていったので、クラウドで携帯電話に転送されるシステムも同時に設定しました。
- HP作成
HP作成には文章からデザインまで、かなりのエネルギーと時間がかかるので、早めに着手した方が良いです。ただ、HP公開は有料職業紹介事業許可証を頂いてからでないと、事前営業活動とみなされて許認可がおりませんので、タイミングを意識しながら進めていってください。
- オフィス契約
有料職業紹介事業を行うオフィスには、様々な規定が設けられています。
主なものとしては、事務所の場所、広さ、設備、プライバシー保護に関する措置などがあります。2017年の職業安定法改正により、事務所の広さに関する条件が緩和されシェアオフィスでの運営も可能になりましたが、独立した個室の契約や予約可能な会議室の設置なども義務付けられています。
弊社は品川駅から徒歩5分のエキスパートオフィスで個室を借りています。会議室も4人から8人部屋が4つあり、フリーで使えるミーティングスペースも広く、受付の方もプロフェッショナルで、とても満足しています。
有料職業紹介事業許可は、マンションでも狭いオフィスビルでも取得可能ですが、やはり「会社の信用」と、お客様の利便性を考えシェアオフィスを選びました。
シェアオフィスについてですが、候補者の方との面談で使う会議室は気を付けて内覧してください。ドアがガラス張りのおしゃれなオフィスも多いですが、プライバシー保護の観点から事業許可がおりません。
オフィス基準についての詳細説明: https://media.agent-bank.com/categories/licence/menkyo
- 有料職業紹介事業許可証申請
私は、詳しい社労士さんにお願いしました。申請についての細かい規定があるので、1回ですんなり許可を得るために、事前アドバイスから申請までサポート頂きました。
弊社が有料職業紹介事業許可証を取得したのは2020年のまさにコロナ禍だったので、申請から監査、許認可証取得まで3か月かかりましたが、きっと今はもう少し短縮化されているのではと思います。余裕をもって申請する事をお勧めします。
- データベース契約、社内システム構築
自社で使うデータベース選びですが、いくつかの会社にデモや説明を依頼し、決定しました。どの会社もクラウド上で運用しているので、場所はどこからでもアクセスできるのと、セキュリティに関してもかなり配慮しているので安心感がありました。
以下は、私が説明を受け、良いなと思ったデータベースの会社です。
ポーターズ:https://hrbc.porters.jp/
たまごDB:https://www.tamago-db.com/ja/
ビンチェリー:https://www.vincere.io/ja-ja/
たまごDBは人材紹介のプロセスを良く熟知した設計になっており、ビンチェリーはスカウトサイトで検索する感覚で扱えるUIがとても優れていると思います。弊社では、検索カスタマイズの容易さを一番重視し、ポーターズに決定しました。
社内システムも、クラウドとセキュリティにこだわり、MicrosoftとKeepersを導入しました。
弊社導入事例:https://www.keepersecurity.com/ja_JP/resources/octavia-case-study/
- 資金調達
人材紹介事業は、クライアントから案件の依頼を頂いて紹介が決定するまで、メンバークラスで1~2か月、エグゼクティブポジションでは3か月かかるのが一般的です。また、その後退職交渉に1~3か月かかるので、入社日を請求日とした契約の場合、着金は6か月以上先になる事を見越して、資金計画をつくる必要があります。
社長(コンサルタント)1人で運営するなら自分の生活費だけ考えれば良いですが、一緒に働くメンバーがいる場合、きちんと給料と社会保険を支払わなければなりません。
私も自己資金で1000万円用意しましたが、足りないと思い、創業時は日本政策金融公庫と信用金庫から2000万円ほどお借りました。国や市区町村としても、スタートアップ支援をしているため、金利を安く借りる事ができる創業融資制度があります。ぜひ、調べてみてください。
融資を受けるための申請をする際には、事業構想・計画作りで説明した、創業ステーションで作成した事業計画書が大変役に立ちました。申請書類のほかに、社長個人の預貯金や不動産などの資産開示や、面接なども必要になります。
なお、融資は有料職業紹介事業許可が下りてからでないと受けられない為、事業許可が下りる予定の1-2か月前から各種機関に相談に行き、申請資料を準備。事業許可が下りたらすぐに融資を受けられるよう、進めておくとスムースかと思います。
社長の給料だけは自由に決められるので、私は創業した2020年は無報酬で働いていました。
起業直後と5年を振り返って
起業からあっという間に5年が経ってしまいましたが、振り返ってみて良かった事、大変だったこと、正直それぞれありました。
良かったこと
- 売上が上がった
大手で勤務していた時は、製造業しか担当できなかったところを、現在は業界も職種もオープンにご支援できるので、結果個人の売上が上がりました。
- 社内政治に振り回されない
他のチームと領域争いをすることも、無駄と思える社内ルールに従う事も、仕事をしない上司に付き合うこともなくなったので、ストレスがかなり減りました。
- 新しいお客様との出会いが広がった
担当できる業界や職種の制限がないため、今までは接点のなかった業界の経営者ともお付き合いさせていただき、とても勉強になり毎日が刺激的です。
- プライベートで付き合う方のレイヤーが変わった
自分が社長になる事ではじめて、経営者の人達とのコネクションがオープンになると実感しています。プライベートでお付き合いする方々は経営者が多くなりました。
- 働き方が自由
大手で勤務していた時のように、前日22:00まで仕事をしていたのに、朝9:00にはオフィスに行かなくてはいけない、といった無理・無駄がなくなりました。その日のスケジュールや体調などを考え、一番効率的に働ける場所、時間で勤務しているのでストレスが全くないです。
大変だったこと
- コンサルタント以外の業務が多い
創業時や、日々の運用に必要な実務でも紹介したように、意外と会社運営の実務も多いので、最初の1年はプレイヤーだった時の3倍は働いていました。
- 売上責任を自分一人で背負わなければいけない
たとえ、採用したコンサルタントの売上がゼロでも、その人の給与と社会保険などの固定費は発生します。そして当然会社を赤字にはできません。メンバーがバケーション中でも、四六時中休みなく働き、1400万円分を一人でカバーした痛い思い出もあります(笑)
色々ありましたが、起業したメリットがデメリットを大きく上回っており、私は起業して本当に良かったと思っています。
人材紹介での起業に向いている人

向いている人
- 人材紹介会社でのコンサルタント経験が10年以上ある
- 個人の売上が、毎年5000万円以上連続でつくれている(スカウトサイトを利用している場合、支払金額を除く)
- 強い信頼関係と紹介実績を持ち、独立しても継続してお取引をしてくれる採用企業が複数社ある
- 周りに人がいない環境でも、サボらず毎日仕事を継続できる
- 会社運用のための法律や会計税務など、細かい所までわからなくても広く浅く勉強する努力が苦ではない
- 私生活の出費も会社経費にも堅実である
一方、人材紹介会社でのコンサルタント経験が5年以下の方や、個人の売上が、その年によってばらつきがあり3000万円程度である(スカウトサイトを利用している場合、支払金額を除く)、という方は、起業後の安定した売上や確実な経営のために、もう少し経験を積んでからのほうがいいのかもしれません。
クライアント企業のコンタクト先が、会社説明会をするような大企業のHRや採用担当者のみという方も、社長や事業部門長、ハイアリングマネジャーと直接やり取りするなどビジネスディベロップメントの幅を広げてから起業されるほうが、確実な契約書の締結や案件獲得に繋がると思います。
そして、KPI管理されていないと、ついついソーシャルメディアを見てサボってしまう、絶対にコンサルタントの仕事しかしたくない、という方は、各自の目標設定や、役割分担がしっかりある組織に所属するほうが合っているのではないかと思います。
また、データベース型の人材紹介会社(1つの業界を60人でカバーしているなど)で働いている方は、複数名で一緒に起業する事をお勧めします。なぜなら、「1人の転職にアクティブな候補者の方を、複数社の採用ポジションに紹介して内定する」ということが、小規模の組織だと難しいからです。
「採用企業から依頼された人材を、スカウトサイトで自分から声をかけて紹介し、内定する」「転職にアクティブな候補者の方が望まれる会社をイチから開拓し、契約を結んだ上で紹介、内定する」ということができていれば、むしろ独立に向いていると思います。
そこに、スカウトサイトに依存しないサーチ手法を身に着ければ、さらに大きな差別化ができると思います。(オクタヴィアに参画いただければ、それを学ぶ事ができるので、ぜひ(笑))
人材紹介事業未経験の方の起業について
人材紹介未経験で、人材紹介事業一本で起業する事は正直お勧めしません…。
最近は採用案件を集めて、そこから紹介できる採用案件ポータルサイトもあるようですが、比較的大手企業で大量に20-30代の若手を採用しているような案件が多く、一方ビズリーチなどのスカウトサイトで、20-30代の方へのスカウト数は月100件を超え、返信率も2%程度と、超絶なレッドオーシャンになっています。
弊社の顧問社労士さんは人材紹介事業のクライアントが多いのですが、3年で8割倒産していると仰っていました。簡単そうに見えて、実は難しいのが人材紹介事業です。
長年、専門性の高い特定の業界(例えば製薬業界など)でご勤務されたベテランの方でしたら、経験を活かしその分野で人材紹介事業をスタートする事は十分可能かと思います。ただ、事前に人材紹介事業の「いろは」は学んでおいた方が確実かと思います。(弊社で学んで頂いても大丈夫です!)