業界動向

化学業界:市場動向と採用トレンド (2022)

May 11, 2022

今回は、近年の化学・素材業界の採用と市場動向の関係性をまとめました。具体的には、人事・事業の戦略と年収や採用傾向を中心に、日本市場に参入するグローバル企業の組織と雇用について解説します。
外資系化学メーカーにお勤めの方はうなずける点や実務に関連する情報があるかもしれません。
最後までぜひご一読ください。

化学・素材業界の市場動向(直近3年)

化学・素材業界の市場の伸長

バッテリー向け材料:電気自動車(EV)向けのバッテリーや再生可能エネルギーで使われる蓄電池が大幅に事業拡大しています。特に、リン酸鉄リチウム (LFP) 系リチウムイオン2次電池 (LiB) 関連は、世界全体で品薄が続き、需要がひっ迫状態です。
日本でも、バッテリー向けの化学品や材料を扱っているメーカーの事業が大きく伸びています。大手総合化学メーカー住友化学は、2024年度の売上収益 1,000億円突破目標を掲げています。

半導体材料:同じく伸びているのが半導体業界です。日本では、昨年生産量世界1位になった韓国サムスンに次いで世界第2位の台湾TSMCが、2021年 日本国内の新しい半導体製造工場設立を発表しましたが、生産主体はいぜん中国やアジア諸国です。

半導体向け化学・素材業界は、バッテリー向けほど大きな動きはないものの、連動する形で市場が拡大しています。フォーチュン・ビジネス・インサイトによると、世界の半導体市場規模は2021年から2028年の間に年平均成長率(CAGR) 8.6%で、8,031億米ドル以上へ成長予測されています。

日本以外のアジア(特に中国)への転換

化学・素材業界は 取引先・受注企業の影響を大きく受け、最終完成製品のニーズ・用途の変化や需要の規模に左右されます。コロナ禍においては、個人レベルの消費者生活自体の変化を実感されたと思います。
日本は、自動車・ディスプレイ・家電・電気電子製品など今まで世界をリードしてきた分野で国際的な競争力を失ってきています。そのため外資系企業は、日本を積極的な投資対象からはずし、圧倒的な規模と成長を続ける中国などに投資して売上拡大を加速させています。

 

化学・素材業界の組織戦略と人事動向

おもな外資系企業の人事戦略転換

上記のような化学・素材市場の動きを受け、複数の外資系会社では 近年 下記のような組織・人事の傾向がみられます。

  1. 日本市場の方針を『伸ばす』ではなく『守る』にシフトチェンジ
    ビジネスの伸び率ではなく、コスト削減をいかに達成したかに、会社の指標を変更
  2. カントリーから事業部への権限移譲
    カントリーマネジャーや Director(部門長)などのエグゼクティブポジションを廃止し、コスト削減
  3. 中国へレポートラインを変更し組織改革
    以前多かったシンガポールに代わり、最近は上海をはじめ中国が増加。同時に日本国内ではリストラを実行

大規模 M&Aとリストラ

グローバルをけん引する大手2社ダウとデュポンの合併 (2017年) には大変驚きましたが、このような大型合併や事業部売却による移管のような大きな業界再編は今までかつてないほど増えています。開発スピードの向上やポートフォリオの拡大を狙いとする背景があるようです。

そして、M&Aとともに組織の再構築(リストラ)がおこなわれます。競合する事業や製品がなければ、ファイナンスやHRなどのバックオフィスやサプライチェーンのリストラに限定されますが、重複する事業がある場合は買収された側からリストラが入る傾向があります。また、アジアへビジネスの中心が移り日本離れが進んでいる話にも関連しますが、直販から代理店販売に切り替えるケースも増えています。そうすると同じようにリストラが入ります。

 

化学・素材業界の採用傾向

年収相場(化学・素材系 外資系企業)

管理職

  • カントリーマネジャー (Managing Director) 2,000万〜4,000万円
  • 事業部長 (Sales Director)              1,500万〜2,500万円 ※兼務の組織が多い
  • 工場長 (Factory Manager)           1,300万〜2,500万円
  • 研究開発長 (R&D Head)               1,500万〜3,000万円
  • 品質保証マネージャ (QA Manager) 1,200万〜1,400万円

 

非管理職

  • 営業課長 (Sales Manager) 800万円〜1,300万円

下記のポジションは、800万円〜1,200万円が年収相場です。

  • テクニカルサポート (Technical Support)
  • アプリケーション開発 (Application Development)
  • 品質保証 (QA: Quality Assurance)
  • 薬事申請 (RA: Regulatory Affairs)
  • 労働安全衛生(EHS/HSE, Environmental, Safety and Health)

 

国別では、アメリカを筆頭に、米系企業>欧州系企業>日系企業、の順で給与水準が高い傾向があります。一方で、実績と結果を求められる期間は、アメリカ(約3カ月)、ヨーロッパ(約6カ月)、日本(約1年)と、欧米系企業は日系企業より短いようです。ご自身の強み・性格・志向に合う企業を選ぶことが大切です。

製品別では、基礎化学品など大きな金額を取引する会社のほうが高い傾向です。

 

化学業界: エグゼクティブに求められる採用要件

コマーシャル領域での実績と戦略立案能力

外資系化学企業の研究開発や製造は海外にあることも多いため、日本国内では「いかに売上を伸ばすか」というコマーシャル領域の経験がより重要視される傾向があります。したがって、80%の事業部長やカントリーマネジャー(社長)ポジションは、Sales & Marketingの領域における実績とともに、ピープルマネジメントをおこなってこられた方が選ばれます。(残り20%はCFO・R&D Head・工場長経験者など)

MBAは、エグゼクティブとマーケティングの採用のみ、書類選考上必要になる場合があります。

ピープルマネジメント:規模と実績

ピープルマネジメントの経験は かなり詳細に選考されます。

  • 今まで何人のマネジメントをしてきたか
  • どのようなファンクションがレポートしていたか
  • 製造部門のマネジメントも含むか

などを中心に、より具体的に実績があるかどうかが鍵です。規模に関しては、今まで5人のマネジメント経験がある方が、いきなり50人組織のヘッドに採用されることはまずありえません。5人の経験であれば 7人から10名の組織のヘッドが妥当です。そして、当然ですが、現在の組織課題や企業文化に合わせて、マネジメントスタイルも重要な選考項目となります。製造に関するマネジメント経験が求められる場合もあります。

新しい組織への 適応能力

一社のみより複数の会社でのマネジメント経験が、新しい組織への適合性があるとプラスに判断されやすい傾向です。また、自社のカルチャーにいかにフィットするかという点においての判断は、アメリカ系・ヨーロッパ系・日系などの大枠だけでなく、具体的にどの国が本社の会社でマネジメントをしてきたかまでさかのぼって考慮されるケースも多いです。

直属の上司や、APACやHQへの説明能力

流暢な英語力はもちろん、グローバルに対していかに説得力のある説明ができるかも重要な採用決定ポイントになります。日本独自の商流や文化が特殊であるため、海外の多くのエグゼクティブたちは理解が難しいケースも少なくありません。そこで、いかにノーとは言わずに論理的に説得できるか(ノーと言った瞬間、外資系ではクビが飛びます)ローカルで実績を上げられる戦略に落とし込めるか、が大事になってきます。

年齢

アメリカ系は一般的に、カントリーマネジャーでは40代後半から52歳くらいまでを選ぶ傾向があります。一方、ヨーロッパ系は、年齢よりも業務の経験値や人柄・マネジメントスタイルなどのシニオリティを重要視するケースも多くあります。過去にも50代後半の方を複数名 カントリーマネジャーのポジションにご紹介したこともあります。取引先である歴史が長い日系企業などがより長く多く経験がある人物を好む傾向があることも、シニオリティを重要視するケースの理由の一つです。

中長期的 採用トレンド

化学・素材業界は、最終製品の動向に大きく左右されるため、しばらくはバッテリーや半導体領域が好調であると予想されます。政治的な要因もサプライチェーンに大きく影響をおよぼすため、今後はインドが中国に代わり台頭してくる可能性も高いです。半導体不足が世界中で騒がれる中、インド政府は2021年12月、半導体やディスプレイの国内生産に対する新たな助成制度を導入しました。2022年3月現在、5社が工場建設の助成事業に名乗りを上げています。

また、円安や銀行法改正によりKKRやカーライルに代表される外資PE(プライベートエクイティ)の日本企業買収も進む可能性があります。通常買収された場合、ファンド側からまずCEOが送られ、社内整備(リストラや早期退職制度を含む)が入り、ある程度整備が終わった段階で主要なDirectorポジションの外部採用(主に外資出身者など)が入ります。PEによっては、かなりゴリゴリの成長戦略を描くケースもあるので、合うか合わないかを十分見極める必要があります。逆にいえば、外資系企業にお勤めの候補者の方で「最後に日系企業に貢献したい」「ヘッドクオーターとして活躍したい」というご希望をもっている場合には、チャンスが増える可能性もあるとみています。

 

この業界が得意なコンサルタント


化学・素材業界: 新木 幸江 (あらき ゆきえ)

新木の経歴・得意領域

オクタヴィア・エグゼクティブサーチの代表である 新木は、的確な分析と客観的な説明を活かし、市場に眠る潜在的な候補者様の発掘やその方が高いパフォーマンスを発揮できるお引き合わせ(マッチング)を得意としています。10年以上にわたる化学・素材業界での経験から豊富な採用・市場の知見を得ており、企業様と候補者様双方から高い信頼を寄せていただいております。

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