エネルギー業界:市場動向と採用トレンド (2022)
原子力・石油・太陽光・風力 そして 水素 - 変化が著しいエネルギー業界。
2022年の電力不足や環境配慮の高まりを受け、年々消費者の関心が集まってきているエネルギー事業は、オクタヴィア・エグゼクティブサーチが最も長く そして 最も注力して採用にたずさわっている業界です。今回は、近年のエネルギー市場動向をざっくりまとめ、採用トレンドや年収相場を簡単にご紹介いたします。
本業界の事業を手掛ける方、採用に関連する方は、特に面白いと思います。
最後までぜひご一読ください。
エネルギー業界の市場動向
化石燃料から再生可能エネルギーへの転換(エネルギー業界全体像)
2016年の原油価格下落は エネルギー業界にとって大きな転換期のひとつでした。世界市場では 北米を中心とした大規模LNGプロジェクトがストップし、再生可能エネルギーへ転換し始めました。
一方、日本国内も同様の流れです。原油価格下落以前は、JGCや千代田化工をはじめとするEPC関連企業が世界中の大型案件を受注しプラント業界が盛り上がりましたが、今はプロジェクトブームも去りました。2011年の東日本大震災(3.11)の影響もあり、原子力に代わる発電源(火力や太陽光、風力)に市場の注目が集まるようになっていきました。
太陽光発電と風力発電に関しては、FIT価格(電力買取価格)や政府の政策が密接に関わって、事業が拡大してきました。太陽光発電は、2012年頃をピークに 多くの外資系ディベロッパーやパネルメーカーが日本市場に参入しました。しかし、当時40円前後だったFIT価格も毎年下落(2022年では10kw以上で11円)、ビジネス縮小や日本撤退を図る企業も出始め一時大リストラが敢行された時期もありました。
洋上風力は 2018年頃から外資ディベロッパーがこぞって日本に市場参入しはじめました。また風力発電設備メーカーの GE・Siemens Gamesaなども、陸上に加え洋上に注力しながら日本国内事業を拡大しました。一方、日系企業の存在感も高く、秋田の洋上風力『ラウンド1』の入札では、2兆円規模の再生可能エネルギーへの投資を発表した総合商社の三菱商事が全海域を落札しました。
2021年から脱炭素化の動きが顕著に
2020年、日本政府は二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることを目標とした『2050年カーボンニュートラル宣言(経済産業省)』を発表し、2050年までに脱炭素社会を実現しようとしています。それに伴い、各社はそれぞれの強みを活かし脱炭素化に取り組み始めました。(参考:経済産業省 今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)2021年3月)
ヨーロッパの 仏シュナイダー・エレクトリック や 独シーメンス などはじめとする電気設備メーカーは 自社のハードとソフトを組み合わせ、自社工場のCO2やエネルギーを『見える化』し、コンサルテーションと組み合わせて 工場全体の二酸化炭素排出量削減支援に取り組んでいます。事業会社も自社で使うエネルギーを脱炭素に切り替えを加速させています。たとえば、アマゾンジャパンは2040年までのCO2排出実質ゼロを目指し、三菱商事と組んで自社供給に使うための太陽光発電の設備を日本国内に450カ所ほど建設するプロジェクトを進めています。
また、自社にないテクノロジーは、M&Aで吸収したり、パートナーシップやアライアンスを組んで共同プロジェクトを推進したり、投資したりしてEcosystemを構築しています。たとえば、三井物産は脱炭素やエネルギーの有効活用に関わる海外IT系企業への増資を発表しています。
エネルギー業界は、これからもっと面白くなります。
2022年以降の注目:水素燃料
水素エネルギー事業は2021年頃から活発になってきました。オクタヴィア・エグゼクティブサーチも最も注力する分野のひとつで、今後 水素燃料は再生可能エネルギーの中で大きく市場が拡大していくことが予測されます。経済産業省(資源エネルギー庁)が、2030年に300万トン、2050年に2,000万トンと、エネルギーの10%を水素で補う方針を発表しています。また、岩谷産業・Shell Japan・ENEOSなどが それぞれの強みを活かし 水素をオーストラリアから日本国内に供給するプロジェクト『HySTRA』を推進し、FCトラック向けの水素ステーションや水素発電などの利活用に注力しています。
水素は 太陽光や風力と異なり、もともと日本企業が強い産業領域での利活用(FCトラック・発電・鉄鋼など)が期待されています。そのため、水素エンジン・水素発電タービン・水素電解装置・水素輸送と貯蔵などの技術開発が進んでいます。この分野は、自動車・石油・LNG・化学などで培われた日本の自動車・重工業・化学メーカーの技術力を応用することが可能です。実際、MHPS(三菱日立パワーシステムズ)は 米国の発電業者から水素タービンを受注しました。(2025年から運転を開始)旭化成も、2019年 福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)を設立し、すでに水素製造を開始しています。
エネルギー業界の採用傾向(直近3年)
2021年から『脱炭素』や『RE100』に関わる新しい事業展開や採用ポジションが増えています。それぞれの会社の強みを活かして、これらの分野への新規参入を目指しているようです。
- 石油ガス
- 洋上風力
- エネルギー効率化支援
- 再生可能エネルギー調達・サステナビリティ
- エネルギー投資(金融機関)・コンサルティング
石油ガス
エネルギーの主流が脱炭素化へと向かい、従来の石油ガス事業での採用件数は激減しています。一方、資源開発企業や石油メジャーがシフトしている再生可能エネルギーの新事業では、比較的中堅社員(30代)を中心に採用がかかっています。
また、石油ガス領域の経験を他分野で活かす採用が増えてきています。特にDXや再生可能エネルギー領域などの経験者が限られている分野では、候補者のご経験の中から事業が求める知識や素質を見抜くことが採用成功の鍵です。
例
- EPC事業でのプロジェクトマネジメント経験を活かし、再生可能エネルギーのディベロッパーやDXを中心としたコンサルティング会社に転職
- 石油会社におけるオーナー側としてのオペレーションやエンジニア経験を活かし、エネルギー関連IT企業の事業開発や再生可能エネルギー会社(太陽光や風力発電だけでなく、バイオマスや水素・アンモニア関連も)に転職
洋上風力
2018年頃から活発化した洋上風力分野の採用では、まずプロジェクト投資に強い総合商社や外資金融出身者がカントリーマネジャーに採用される傾向にありました。その後2020〜2021年にかけて事業開発・財務・法務・プロジェクトマネジメント・電気設備関連エンジニア・土木関連エンジニアなど、入札に必要な職種が採用されました。経験者の採用は競争が激しいので、ヘッドハンティングで 着実かつピンポイントにアプローチする必要があります。太陽光やゼネコン、商社で勤務されていた方や、ヨーロッパ・台湾など海外で活躍している外国人技術者の登用も有益な場合があります。
しかし、今後は日本政府の公募ルール変更の取り組みにも注目が必要です。前述の2021年末『ラウンド1』ではヨーロッパで実績があるØrstedやRWEではなく、三菱商事グループが総取りしたことは衝撃でした。公募に落選した外資は日本における事業を保留・縮小する可能性があります。日本政府の公募ルール変更などに取り組んでいますが、今後の結果によって外資が日本から手を引き始めるかもしれません。
年収相場(洋上風力)
- ディベロッパー&商社 部長 2,000-3,000万円
- 外資発電設備メーカー 部長 1,500-2,500万円
- ディベロッパー&商社 非管理職 1,300-2,000万円
- プロジェクトマネジャー 1,200-1,500万円
エネルギー効率化支援(IoT/DX)
FA(ファクトリーオートメーション)や電気設備メーカー・ITソフトウェア企業を中心に、コスト削減と同時に省エネ化し 脱炭素化に貢献するエネルギー効率化支援事業が活発化しています。おもに工場やオフィスビル・商業ビル・ホテル・データーセンターなど電力消費量の高い事業を対象として、EMS(エネルギー監視システム)などを活用し、エネルギーを『見える化』するクラウド型のソフトウェアシステムとそれに接続するPLCなどすべての機器からデータを収集して稼働状況や電力使用量を分析して、さらに効率化する仕組みへつなげる戦略です。
連動して『つなぐ』ためのセンサー・コンピュータビジョン・OT(Operational Technology)分野のセキュリティも、新規参入や新規採用が増加しています。(例:シュナイダーDXの取り組み)
逆にDXにからまない従来型の採用は減少または欠員募集が中心です。
年収相場(エネルギー効率化支援)
- 外資IT企業 営業職 1,500〜3,000万円
- 外資IT企業 プリセールス 1,300〜2,000万円
- 外資電気設備メーカー 営業職 1,000〜1,800万円
- 外資電気設備メーカー 技術職 1,000〜1,500万円
※ いずれも、中堅からシニアレベル
再生可能エネルギー調達・サステイナビリティ(事業会社)
事業会社でも、自社のエネルギーを脱炭素に切り替えが徐々に増えています。といっても、前述のアマゾンジャパンのような大規模な取り組みはまだ多くはありません。各社数名の採用というペースで、2021年3月頃から外資系を中心に採用が始まっています。自社に新しく再生可能エネルギーに特化した調達の部署を設立し、採用を開始する企業も増えてきました。
日系企業では『サステナビリティ』『SDG’s』『ESG』に関わる新規部署で徐々に採用が出てきました。こちらは、再生可能エネルギー調達というよりもCRM・経営企画・IRなどコーポレート寄りのポジションになっており、任せたい仕事内容や方針は各社さまざまである印象を受けています。採用時には方針やゴールが未確定であることもあるので、やりたいことが明確な候補者は選考中に検討する必要があります。企業との相性や上司の方針に対応できる柔軟性や適応能力が高いかたなどが適していることもあります。
参考:
企業へご紹介する前に、オクタヴィア・エグゼクティブサーチが見ている候補者選出ポイント(ソフト面)
ESGに向くのは専門組織か、横連携か? 奮闘記に学ぶ【ノウハウ】(Energy Shift)
年収相場(サステイナビリティ推進)
- 日系メーカー 部長 1,000〜1,500万円
- 日系メーカー 非管理職 600〜900万円
エネルギー投資(金融機関)・コンサルティング
アクセンチュア・マッキンゼー・ボストンコンサルティンググループ (BCG) などの大手コンサルティング会社は、エネルギー分野のコンサルタントを積極的に採用しています。特に政府関連から委託を受けている場合、新エネルギーの調査やDX関連分野など、エネルギーに関わる領域ほぼ全てにたずさわるためです。その場合、採用エージェントを通して幅広く専門知識を集める傾向があります。
大手金融機関や独立系PEでも、環境・エネルギー分野への投資のために、エネルギー業界経験者を少数名採用しています。
年収相場(コンサルティング)
- 外資戦略コンサルティング会社 コンサルタント(管理職) 1,500〜4,000万円
- 外資戦略コンサルティング会社 コンサルタント(非管理職) 1,000〜2,000万円
中長期 採用トレンド
水素燃料の事業・採用は伸びる
オクタヴィア・エグゼクティブサーチがもっとも注目しているエネルギー分野は、水素です。まだまだ高コストの資源ですが、水素燃料の世界市場は2050年に約280兆円規模へ拡大し、3,000万人の雇用を創出するともいわれています。
2022年になって 少しずつ水素関係の採用案件も増えてきました。特に水素の利活用を推進する事業開発のポジションが多くみられる印象です。
新しい分野であるからこそ、幅広く人材を探す必要が出てきます。弊社では引き続き水素領域に注目し、優秀な人材の紹介を通じて日本の産業に貢献してまいります。
この業界が得意なコンサルタント
オクタヴィア・エグゼクティブサーチの代表である 新木 は、的確な分析と客観的な説明を活かし、市場に眠る潜在的な候補者様の発掘やその方が高いパフォーマンスを発揮できるお引き合わせ(マッチング)を得意としています。
エネルギー業界においては、石油ガス領域を中心に、10年以上採用を支援してまいりました。このところ低調で重い雰囲気が漂っていた重工業も日本の産業が活気づけば、外資系企業の参入も期待できます。それに伴い、日本の採用マーケットは活気づくと大いに期待しています。
UCバークレーでの海外留学経験や外資のクライアント様を多くお仕事をさせていただく中で培われた国際的な感覚を生かし、日本市場の特性や背景を具体的に理解した上で、水素などの新燃料事業への採用を積極的にたずさわっております。
「ベストな候補者になかなか出会えない」と悩む企業様、「現在はまだ転職を考えていないけれど転職市場の情報だけでも聞いてみたい」と考えている候補者様など、エネルギー業界の採用にご興味がある方はぜひ気軽にご連絡ください。
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